「動画を外注したいが、何から決めればいいのか分からない」——この状態のまま制作会社に問い合わせると、たいてい話が噛み合いません。先方は見積もりを出すために条件を聞きたいのに、こちらはその条件を決めるために相場を知りたい。この順番のねじれが、相見積もりを取っても比較できない最大の原因です。
動画制作の外注は、センスや相性の話ではなく、6つの決定を順番に片づける作業です。目的 → 体制 → 予算 → 発注先 → 見積比較 → 契約条件。この順番で決めていけば、どの会社に頼んでも大きくは外しません。逆に順番を飛ばすと、金額だけを見て発注し、追加費用と修正のやりとりで結局高くつきます。
この記事は、動画制作の外注に必要な判断を1ページで通して見渡すための地図です。各ステップの詳細は個別記事に用意してあるので、いま迷っている段階から読み進めてください。金額はすべて概算で、特記がない限り税別です。
この記事の結論を先に
- 外注の失敗は「発注先選び」ではなく「条件を決めずに問い合わせたこと」で起きる
- 決める順番は 目的 → 内製か外注か → 予算 → 発注先の種類 → 見積比較 → 契約条件 の6つ
- 相場を知る前に、まず1本のゴールを1つに絞る。ここが決まらないと見積もりは必ずぶれる
- 見積書の比較は金額ではなく「含まれていないもの」を並べる。差はほぼそこにある
- 制作費を払っても著作権は自動では移らない。契約書に27条・28条の記載が要る
動画制作の外注は「6つの決定」で決まる
まず全体像です。外注のプロセスは、次の6つの決定に分解できます。上から順に決めてください。下の決定は、上が決まっていないと決められません。
| 順番 | 決めること | 決まらないと起きること |
|---|---|---|
| 1 | 目的とゴールを1つに決める | 盛り込みすぎて、誰にも刺さらない動画になる |
| 2 | 内製・外注・ハイブリッドを選ぶ | 「内製は無料」という前提で判断を誤る |
| 3 | 予算のレンジを決める | 相場から外れた見積もりに気づけない |
| 4 | 発注先の種類を選ぶ | 相見積もりの相手がそろわず比較にならない |
| 5 | 見積書を同じ土俵に載せる | 金額だけで選び、後から追加費用が出る |
| 6 | 権利・修正・納期を固める | 納品後に使えない・直せない・間に合わない |
この6つのうち、発注側が主導権を持てるのは1〜3です。ここを自社で決めきってから問い合わせると、4以降は一気に楽になります。逆に1〜3を制作会社に決めてもらおうとすると、各社がそれぞれ別の前提で見積もりを作るため、比較が成立しません。
ステップ1:目的とゴールを1つに決める
最初に決めるのは予算ではなく、この1本で何を達成したいかです。そしてそれは1つに絞ってください。
実際の相談でいちばん多いのが、1本の動画に「商品の魅力」「会社の信頼感」「採用の訴求」を全部入れたいというご要望です。気持ちは分かるのですが、視聴者は1本の動画から1つのことしか持ち帰りません。3つ入れた動画は、3つとも伝わらない動画になります。
| 目的 | 成功の判断材料 | 動画に必要なもの |
|---|---|---|
| 広告で新規に知ってもらう | CTR・CPC・CPA | 冒頭で止める仕掛け、短い尺、複数パターン |
| 商品・サービスを理解してもらう | 視聴維持率、LPの滞在時間 | 使用シーン、比較、具体的な数字 |
| 会社を信頼してもらう | 問い合わせ率、商談化率 | 実在の現場、担当者、工程の可視化 |
| 応募してもらう | 応募数、辞退率 | 仕事の具体、社員の声、応募導線 |
目的が決まると、必要な工程が自動的に決まります。たとえば「広告で新規に知ってもらう」なら、1本を作り込むより複数パターンを作って差し替え続ける設計のほうが成果につながるため、1本あたりの単価を下げる方向で発注条件を組むべきです。一方「会社を信頼してもらう」なら、実在の現場を撮る必要があるので撮影費は削れません。同じ「動画1本」でも、目的が違えば適正な予算配分がまるで変わります。
目的別の具体的な設計は、用途ごとの記事に分けてあります。採用が目的の場合は採用動画の作り方と費用で、構成・インタビューの質問設計・見積もり項目まで扱っています。
ステップ2:内製・外注・ハイブリッドを選ぶ
次に決めるのは体制です。ここで多くの会社が判断を誤ります。理由ははっきりしていて、外注は見積書に金額が書いてあるのに対し、内製のコストはどこにも書かれていないからです。
内製が無料に見えるのは、費用が発生していないからではありません。担当者の給与、会社負担の社会保険料、編集ソフトの月額、機材の減価償却、そして確認と修正にかかる時間が、別の予算項目や誰かの残業に移っているだけです。この見えないコストを金額に直してから比べないと、比較になりません。
| 条件 | 有利になりやすい体制 |
|---|---|
| 年に1〜2本しか作らない | 外注。機材とソフトの固定費を回収できない |
| 毎月一定本数を作り続ける | 内製またはハイブリッド。単価が下がり続ける |
| 短納期・高い専門性が必要 | 外注。習熟にかかる期間が間に合わない |
| 権利処理・成果責任が重い | 外注。失敗コストが単価差を上回る |
| 企画は社内にあり、撮影・編集だけ困っている | ハイブリッド。工程を分けて持つ |
「内製か外注か」の二択で考えないでください。企画・撮影・編集・運用は分けて持てます。企画と運用は社内、撮影と編集だけ外注、という形が実務的にはいちばん多い解です。
自社の給与額と実際の制作時間を入れて計算する手順は、次の記事に置いています。
ステップ3:予算のレンジを決める
体制が決まったら、予算のレンジを置きます。ここで必要なのは正確な金額ではなく、「この条件ならこのくらい」という桁の感覚です。桁さえ合っていれば、相場から外れた見積もりに気づけます。
SNS向けの短尺動画(15〜60秒)を外注する場合、実務上の目安は次のとおりです。
| 発注条件 | 費用の目安 | 誰が何をするか |
|---|---|---|
| 素材支給・編集のみ | 0.5万〜5万円/本 | 企画も素材も発注側。編集だけ外注 |
| 自社撮影+編集 | 2万〜10万円/本 | 撮影は自社。企画と編集を外注 |
| 企画・撮影・編集込み | 20万〜50万円/本 | ほぼ全工程を外注 |
| 広告・ブランド用途 | 50万円〜 | キャスティング・美術・音楽まで含む |
注意していただきたいのは、金額を決めているのは尺ではないという点です。同じ15秒でも、素材をお預かりして編集するだけなら数千円から、企画・撮影・キャスティングまで含めれば50万円を超えます。差を生んでいるのは、撮影の有無・企画の量・出演者・修正回数・広告に使うかどうかの5つです。「短い動画だから安い」は成立しません。
なお、制作会社の受注実績240件を集計した公開データでは中央値が63万円でした。上の表と桁が違って見えますが、これはテレビCMや会社紹介映像を含む全体の数字です。自社が発注しようとしている条件と、参照している相場の前提が同じかどうかを必ず確認してください。
AI動画を使う場合の費用構造は別記事に分けてあります。撮影・ロケ・キャストの物理コストが、生成・ボツ確認・権利処理・社内工数へ移るだけで、AIを使えば自動的に安くなるわけではありません。
ステップ4:発注先の種類を選ぶ
予算レンジが決まると、声をかけるべき相手が絞れます。ここを混ぜて相見積もりを取ると、そもそも比較できない見積書が並びます。
| 発注先 | 向いている条件 | 注意点 |
|---|---|---|
| 制作会社 | 撮影が必要/複数職種が動く/責任範囲を明確にしたい | 下限価格が高い。小さい案件は割高になる |
| フリーランス | 編集中心/継続的に少額で回したい | 体調・繁忙で止まるリスク。取引条件の明示が必要 |
| 定額・パッケージ型サービス | 仕様を固定してよい/本数を出したい/納期を短くしたい | 個別要望に応えられる範囲が限られる |
| 広告代理店経由 | 配信運用まで一括で任せたい | 制作費に管理費が乗る。制作者と直接話せないことがある |
フリーランスに発注する場合、取引条件を書面などで明示することが法律上求められています(公正取引委員会・フリーランス法)。「あとで決めましょう」で進めると、発注側が不利になるだけでなく、法令上も問題になり得ます。金額・納期・納品物・修正回数は、着手前に文字にしてください。
ステップ5:見積書を同じ土俵に載せる
ここが外注の山場です。A社80万円、B社110万円、C社125万円——この3つを並べて「B社が妥当かな」と考えている時点で、その比較は成立していません。3社が見積もっている作業範囲が、最初からバラバラだからです。
比較を成立させる手順は2つだけです。
1つ目は、発注条件を1枚にそろえて全社に同じものを渡すこと。目的・尺・本数・撮影の有無・出演者・納品形式・利用範囲・修正回数・希望納期。これを先に固定すれば、返ってくる見積書は自動的に比較可能になります。
2つ目は、見積書の「一式」を必ず分解してもらうこと。「動画制作一式 80万円」は情報がゼロです。何が入っていて何が入っていないのかが分からない限り、その80万円は評価できません。
そのうえで確認するのは次の7項目です。
| 項目 | 確認すること |
|---|---|
| ① 企画・構成 | どこまでが「企画」か。台本・絵コンテは含まれるか |
| ② 撮影 | 「撮影1日」の中身。人数・時間・場所・機材を数字にする |
| ③ 編集・音響 | 会社差が最も大きい項目。カット数・テロップ量・MAの有無 |
| ④ 出演者・素材・ライセンス | 「Web利用可」がどこまでを指すか。期間と媒体を確認 |
| ⑤ 修正 | 「修正2回まで」の1回がどこからどこまでか |
| ⑥ 納品物と著作権 | 元データは渡るか。著作権はどう扱うか |
| ⑦ スケジュール・支払い | 「納期2か月」に自社の確認時間が入っているか |
実務的にいちばん効くのは、3社比較表に「含まれないもの」の欄を作ることです。金額の欄だけ見ていると分からなかった差が、この欄を埋めた瞬間に見えます。判断すべきは初期見積額ではなく、追加費用まで含めた実質コストです。
各項目の具体的な確認文言と、そのまま使えるチェックリストは次の記事にあります。
ステップ6:契約前に権利・修正・納期を固める
最後に、納品後のトラブルを防ぐ3点です。ここは発注前の1時間で片づく話が、納品後には数十万円になります。
著作権は、制作費を払っても自動では移らない
制作費を全額支払っても、著作権は原則として制作側に残ります。譲渡を受けるには契約書での明記が必要で、しかも著作権法27条(翻案権等)・28条(二次的著作物の利用に関する権利)は、契約書に個別に書かれていないと譲渡の対象外と推定されます(文化庁「著作権契約書作成支援システム」等の資料)。
実務上これが効いてくるのは、納品された動画を後から自社で編集し直したいときです。「著作権は譲渡する」とだけ書かれた契約では、尺を詰める・字幕を変える・別媒体用に作り替えるといった行為ができない可能性があります。
利用範囲は「媒体・期間・二次利用」で書く
出演者の同意も、素材のライセンスも、音楽も、すべて「どこで・いつまで・何に使えるか」で決まります。とくに音楽は、SNSアプリ内で選べる楽曲が広告にも使えるとは限りません。投稿としての利用と広告としての利用は、権利処理上まったく別の扱いです(JASRAC)。
公開後に権利の問題が見つかると、差し替えの制作費に加えて、配信停止による機会損失まで発生します。権利処理は、費用を削ってよい項目ではありません。
納期は「自社の確認時間」を足して逆算する
制作会社の提示する納期には、発注側が初稿を確認して修正指示を出す時間が含まれていないことがあります。社内の承認者が複数いる場合、この確認だけで1〜2週間かかることも珍しくありません。配信開始日から逆算するときは、制作期間+自社の確認期間で見てください。詳細は広告動画の制作期間はどれくらいかかるかで扱います。
補助金・助成金が使えるか、発注前に確認する
見落とされがちですが、動画制作費は補助金の対象になる場合があります。小規模事業者持続化補助金の広報費・ウェブサイト関連費、自治体のPR動画補助、新事業関連の補助金などが該当します。
ここで絶対に外せない注意点が1つあります。多くの補助金は交付決定後に発注・契約したものしか対象になりません。「先に作ってから申請する」は原則として通りません。使う可能性があるなら、制作会社に問い合わせるより先に公募要領を確認してください。
対象になる経費(外注費・企画・機材レンタル・出演料など)とならない経費の判定、申請書での動画の必要性の書き方、証憑管理までは次の記事にまとめています。制度・公募期間・金額は変わるため、申請前に必ず最新の公募要領をご確認ください。
発注前チェックリスト
問い合わせる前に、この16項目が埋まっているか確認してください。埋まっていれば、相見積もりは比較可能な形で返ってきます。
問い合わせ前に埋める16項目
- この1本の目的を1つに決めた
- 成果をどの数字で判断するか決めた
- 内製・外注・ハイブリッドのどれかを決めた
- 内製する場合の人件費を時給換算した
- 予算の上限と下限を決めた
- 尺と本数を決めた
- 撮影の有無を決めた
- 出演者を出すかどうか決めた
- 配信する媒体を決めた
- 納品形式(比率・解像度・元データの要否)を決めた
- 利用範囲(媒体・期間・二次利用)を決めた
- 修正回数の希望を決めた
- 希望納期と、社内確認にかかる日数を出した
- 社内の承認者と決裁フローを確認した
- 補助金を使うかどうか確認した
- 「含まれないもの」を書く欄を比較表に作った
参考:pitattoの場合
比較の材料として、自社の条件も開示しておきます。pitattoは75,000円(税込)〜・最短7日・映像のみ2回まで無料修正で、素材や写真のご用意は基本的に不要です。ステップ4の表でいえば「定額・パッケージ型サービス」に当たります。
この価格と納期が成り立っているのは、ロケ撮影とキャスティングの工程を持たない設計にしているからです。撮影を外すと費用構造がどう変わるかは、実際の制作物を見ていただくのが早いと思います。
一方で、向かないケースもはっきりしています。実在の店舗・スタッフ・調理風景そのものを見せたい場合や、特定の場所で起きている出来事を記録として残したい場合は、現地撮影が前提になります。ステップ1で決めた目的が「会社を信頼してもらう」で、その根拠が実在の現場である場合は、撮影を持つ制作会社に依頼してください。
まとめ:どこから手をつけるか
いま迷っている段階に応じて、次に読む記事を決めてください。
| いまの状態 | 次にやること |
|---|---|
| そもそも社内で作るべきか迷っている | ステップ2。実質コストを計算する |
| いくらかかるのか見当がつかない | ステップ3。発注条件から桁を決める |
| 見積書が手元にあるが判断できない | ステップ5。7項目で分解する |
| 発注先は決まったが契約書に不安がある | ステップ6。権利・修正・納期を固める |
| 予算が足りない | 補助金の確認と、撮影工程を外す設計の検討 |
繰り返しになりますが、外注で失敗する原因のほとんどは発注先の選択ではなく、条件を決めずに問い合わせたことにあります。上の16項目が埋まっていれば、どの会社に依頼しても大きくは外れません。
条件の整理から相談したいという場合も、目的・希望納期・予算感の3点だけ教えていただければ、こちらで整理してご案内します。
参考にした出典
- 文化庁「著作権契約書作成支援システム」「著作権契約の手引き」— 著作権法27条・28条の明記がなければ譲渡対象外と推定される点
- 公正取引委員会「フリーランス・事業者間取引適正化等法」— 取引条件の明示義務
- 中小企業庁「小規模事業者持続化補助金」公募要領 — 広報費・ウェブサイト関連費の区分、交付決定後に発注する原則
- 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」/日本年金機構「厚生年金保険の保険料」/国税庁「減価償却のあらまし」— 内製の実質コスト算定
- JASRAC — SNS投稿での音楽利用と広告での音楽利用の区別
- Lumii「動画制作・映像制作の相場・料金表を解説」— 受注実績240件の中央値63万円
- ココナラ/クラウドワークス/ランサーズ 各社公開の動画制作・編集の価格帯データ
- 自社データ:pitatto の提供条件(75,000円税込〜/最短7日/映像のみ修正2回)および実制作物